現在ではキーボードから漢字を入力する方法として、 かな漢字変換方式が一般的に使われています。 これはご存じのように、漢字の読みをかなで入力し、 変換によってコンピュータがディスク上の辞書を引いて その読みに相当する漢字を表示・選択するものです。
一方のT/TUT-Code[#1] といった漢字入力方式では、 変換という操作を経ずにキーの組合せだけで漢字を直接入力します。 人間の側が、個々の漢字を入力するにはどうすればよいかという 手順(コードまたはキー・ストロークと呼ぶ)を覚えることになります。
たとえば、TUT-Code であれば「ymr」と打てば「漢」が入り、 「no」と打てば「字」が入る、したがって「ymrno」と打てば「漢字」が入る、 「変」は「gc」、「換」は「lhf」といった具合です。 (実際にはアルファベットで覚えているわけではありません)
歴史的にはこのような方式は、かな漢字変換方式と同じか、 あるいはそれ以上に古いものです。 初期のころには連想式というものがありました。 これはたとえば、かなの「ミラ」に相当するキーを打つと「鏡」が入力される というように、漢字とそれを入力するためのコードとの関係を 連想によって覚えやすくしようとしたものです。 カナ2文字で漢字を入れる方法としては、川上さんのラインプットが有名です。 これ以外にもカンテックのKIS とかリコーや 日立の最初のワープロに使われていたものなどがあります。
しかし連想によって関係づけられる漢字とコードには限界があります。 また連想式でも熟練すれば連想によって コードを思い出すということはなくなります (だとすれば、連想そのものが結局のところ無駄になってしまいます)。 そこで連想をやめて漢字の出現頻度やキーの打ちやすさを定量的に調べ、 それをもとにコード配列を決めようという流れがでてきました。 これが T-Code です。
T-Code ではホームポジション上下に最上段の数字キーを加えた40キーを使い、 2ストロークで約1600の文字[#2] が入力可能です。 また、かなも漢字と同じ扱いで、出現頻度によってコードが決定されています (カタカナもひらがなとは別のコードが割り振られています)。 したがってコード配列には, 字の意味による規則性はまったくありません。
T-Code のあと、最上段のキーは打ちにくい、かなの配置がばらばらでは初心者が しりごみする、などの反省から TUT-Code が設計されました。 かなは、子音・母音のローマ字形式[#3] で規則的に配置し(ひらがなとカタカナは、 モードを切り替えて入力します)、ホームポジション上下3段の30キーを使い、 漢字は2ストロークで725文字、3ストロークで1800文字が入力可能です。 TUT-Code は、豊橋技術科学大学(略称TUT)の大岩研究室で開発され、 エプソンの「タッチ16」、ギャルドの「タッチタイプ」として 商品化されたことがあります。